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著者 松島永子
2000年2月14日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載
バレンタイン事情
もうすぐバレンタインデーだ。子供の世界でもこの日は一大イベントである。
小学校一年生。二月上旬の女の子の会話だ。
「今年はだれが一番たくさんもらうかね?」
「そりゃあ翼くんだよ。幼稚園のときも一番だったし。私もあげようかなぁ。」担任の私は思わず聞いてしまった。
「ねえ、幼稚園のときから、チョコあげてるの?」
「うん。当たり前じゃん。私なんか年中さんのときから浩くんと孝也くんにもあげてたんだよ。でも今年は翼くん。かっこいいもん。」
「そうそう。絶対二組では翼くんがいちばんもらうね。多分五個はあると思うな。」
一番人気?の翼くんに聞いてみた。
「ねえねえ、幼稚園のときからチョコもらってたの?」
「うん。そうだよ。一人で食べきれないから家でみんなで食べちゃうの。」
スポーツが得意で、顔もジャニーズ系の翼くんは、さらっと答えてサッカーをやりに行ってしまった。
小学校四年生。このくらいの年令になると、女の子はかなり真剣だ。義理と本命の使い分けも始まる。
「先生、祐樹くんて競争率高いよね。あげても無駄かなぁ。」と悩みの相談をされる。何と答えていいものやら、こちらも悩んでしまう。
「チョコ買うのもお金かかって大変じゃないの。」と、ちょっと的を外れたことを言うと、すかさず
「そこらで売ってるチョコなんてだめだよ。義理じゃないんだから。本命にはちゃんと作るんだよ。いろいろ材料買ってきて。」と、教えられてしまった。同じ班の男子に渡す義理チョコは一枚百円程度のもの。そして本命用のは工夫をこらしてちゃんと加工するそうだ。なかなか手間もかかっていて大変である。
小学校六年生。はや大人の仲間入りと言う風情の女子。下手にバレンタインのことも口にしなくなる。しかし準備は周到だ。
バレンタインデーの日の放課後、
「先生、ちょっとちょっと。」と呼ばれて行ってみると、「はい。失敗作だからあげるね。」とタッパーを渡された。中にはチョコレートが一杯。ハート型や星型で型ぬきしてある。カラフルな粉も散らしてあって、見た目も豪華だ。
「すごいね。これで失敗なの。こんなにきれいにできてるのに。」
「ちょっと粉のかかり方にムラがあるでしょ。だからそれはブー。」
「ふーん。それで成功作品はだれにあげたの。」
「そんなの教えるわけないでしょうが。じゃあさようならぁ。タッパー明日でいいですよ。」
帰っていく久美子は身長百六十五センチ。ランドセルを背負っているのが不似合いに見えた。
中学校。ちょっと小学校とは事情が変わってくる。基本的に「学校でのチョコの受け渡しは禁止」だ。バレンタインデー前日、生徒指導主任が全校放送して釘をさす。「明日は余分なものを持ってこないように。」小学校から中学校へ異動した私にとっては最初、少々野暮に感じた。が、現実には例外を認めてしまうと一気にエスカレートして、歯止めが効かなくなることも事実だ。中学生ともなれば受け渡し場所も自分たちで考えて、しっかり気持ちは伝えている。こちらが出る幕はない。
もちろん小学校でも「学習に必要ないものは持ってこない」ことになってはいるが、現実はかなり大らかである。
一番恩恵を受けている人。それは実は小学校の男性教師かもしれない。心優しい子供たち、今年も担任教師に「義理チョコ」を渡すのだろうか。